*常夜一片

常夜一片短編 俺はお前の引き立て役か編 [短編]




常夜一片 短編

俺はお前の引き立て役か編



あらすじ
生後1日、またはそれ以前よりの腐れ縁にして犬猿の仲である欧塁と軋。
いつも軋にしてやったりの欧塁は、運がない…?



かんたん解説
騎士舎(きししゃ) 要人護衛でおなじみらしい組織。アホなメンツが多い。地味に言いづらいし、打ちにくい。
束城 軋(たばしろ あつ) 騎士舎舎員。天然なようで計算高い。エロい。
市安 欧塁(しあん おうる) 騎士舎舎員。ヤンデレ(ヤンキーデレ)。口は悪いが地味に根はいい奴。
蒲帆 公英(がまほ きみひで) 騎士舎舎長。創設者でもある志高き人。だがアホだ。作者はハム舎長と呼んでます。


〜このお話は前考えです。
若干、描写がたりなくて読みづらいですが、話は完結しています〜

〜本作はBL要素があります。
生暖かい気持ちでお読みになられないかたは、そっとお戻りくださいませ〜


・騎士舎にて
要人護衛開始時間待ちの軋と欧塁は暇を持て余していた。
静かに読書する軋。次第に苛立つ欧塁。(というかいつも苛立ってるけど)
欧「なあ。どうして迅木はお前になついてるんだ?」
軋「なつくって…犬じゃないんだから」
欧「じゃあ、なんだよ。物か?」
軋「違うだろ」
欧「だから、なんなんだよ」
軋「…宝物?」
欧「物じゃねえか!」
軋「そういう風に言うなよ」
欧「お前が今、物っつったんじゃねーか!前々から思ってたが、お前といるといつもおいしい所を奪われる」
きょとんとする軋。
欧「この間の忘年会でもそうだ。毎年恒例の社長からの贈り物はでかい箱と小さい箱どっちが良いか聞かれて、俺は御伽噺みたく小さい箱には大判小判、大きい箱には魑魅魍魎だと思って、小さい箱にしようとした。だがお前が、舎長は単純だから、小さい箱にはつまらない物、大きい箱にはすごい物が入ってるに違いないと言うから、俺は大きい箱に決めたのに中身は小さな小さなまんじゅうひとつでお前が選んだ小さい箱には金が沢山入ってたじゃねえか!」
欧塁は一気に言い終えるとぜえぜえと息をした。
軋「それはお前の運がないだけだろ?それに俺が大きい箱を選ぼうとしたら、お前が勝手に横取りしたんじゃないか」
欧「…ちっ」
軋「…まあ、確かにお前と一緒にいると、お前の性格が極悪なおかげで俺が良い人に見えるがな」
欧「!?…計算か!計算なのか!?」
欧塁は軋の襟首を掴み、がくがくと揺さぶる。無表情で揺さぶられる軋。
欧「ちっ…面白くねぇ…」 
欧塁は床に置いていた上着を取ると、部屋を出て行こうとした。軋が呼び止める。
「おい、仕事はどうするんだよ」
「知るか!」

・今日のお仕事
軋はいつものように「なんでもない」というような顔をして立っていた。
「…あれ、今日は欧塁さんもいるんじゃなかったの?」
零雪が困ったような顔をして、軋に聞く。
軋「あいつは腹を猛烈に壊したから休むそうだ」
零「…そ、そうなんだ…はらいた持ちか…俺と同じだな…」
零雪が俯くと、禅一郎は空を見た。
「早く行くぞ。急がないと雨が降りそうだ」
舎長から今回の任務は、ある人物をある場所まで護送してくれ、とだけ聞いていたのだが、まさか零雪を護送する任務だとは思わなかった。軋はしみじみと欧塁の運のなさを噛み締めた。

・本当に運がない?
それからしばらくして。欧塁は大木の下で立ち尽くしていた。突然の大雨に襲われたからである。
止みそうにない雨をうんざりを見つめる。本当にやってられない。
「くそ…ッ」
怒りに身を任せて大木を思いきり蹴る。すると枝が揺れて大粒の雨が降って来た。
びしょ濡れになる欧塁。
「…」
やりきれなくて座り込んだ。
少し離れた場所にある草に、小さな雨蛙が座っている。暇をつぶすように、それめがけて小石を投げた。
何度やっても当たらない。銃なら的を外す事はないのだが、投擲はあまり得意ではないらしい。
欧塁は諦めると周囲を見た。相変わらずの土砂降りだ。大きな雨粒が土をえぐって穴を開けている。
その大きな雨音と共に、びしゃびしゃと足音が聞こえた。辺りを見渡す。
まさか、束城じゃないだろうな…こんなぐしょ濡れの所を見られたら、またなんと言われるか…
「ふはは、馬ッ鹿じゃねーの!この運無し男が!」
とでも言われるに違いない。 ※軋はそんな事言いません
欧塁は溜め息をついて、両足を抱えて顔を埋めた。足音が目の前で止まる。
「…欧塁さん?」
聞き覚えのあるその声に、欧塁が顔を上げる。そこにはぐしょ濡れで泥まみれの零雪がいた。

・実は幸運の持ち主?
顔を上げた欧塁を見て「やっぱり、欧塁さんだ」と零雪が微笑む。
「…なんだ、お前」
欧塁はそっけなく答えた。零雪は欧塁の隣に座ると、着物の裾を絞った。
まるでこれから水拭きでもする雑巾のごとく、大量の水が絞り出される。
「…泥に足を取られて、崖から落ちちゃって…」と零雪は照れながら言った。
よく見てみると、零雪の手や足は傷だらけだ。どういう転げ方をしたらこうなるのか、欧塁は首を傾げた。
束城ならこういう時、なにも言わずそっと乾いた布でも取り出して差し出すのだろうが、俺はそんな事はしない。
…乾いた布もない。
「…あ、そういえば、おなかのほうは大丈夫なんですか?もう治ったんですか」
零雪は笑顔で聞いた。欧塁はなんの事か分からずきょとんとしている。零雪は笑顔を消して、首を傾げた。
欧「なんだ。腹がどうしたんだ」
零「軋から、腹を壊して今日は休んだって聞いたから…」
欧「俺が?まさか。俺の腹は丈夫だ。これまで腹を壊した事といえば、子供の頃、腐った牛乳と気づかずに一瓶飲み干してぶっ倒れた一度きりだ」
零雪が思わず吹き出して笑いそうになる。どれほど喉が渇いていたら、腐った牛乳と気づかずに一瓶飲み干せるのか。
しかし、冗談の通じなさそうな欧塁の話を笑ったりしたら怒らせてしまうかもしれない、と零雪は笑うのを我慢した。
欧「…束城と会ったのか。…密会か?」
零雪が驚いて、欧塁を見る。
「え!?違いますよ。今日、騎士舎さんに護衛をお願いしてたんです。…知らなかったんですか?」
欧塁が内心怯む。全然聞いてない。…まさか、束城め。わざと俺に教えなかったのか?疑心暗鬼になる欧塁。
零「あんまり知らない山だし、道が険しいから、道案内をお願いしてたんだけど、まさか雨が降って来て崖から落ちる事になるとは思わなかったよ…。禅一郎も軋も心配してるだろうな…」
零雪が空を見上げる。大雨は止みそうにない。悲しそうな零雪の横顔を黙って見つめる欧塁。
零「うわっ!蛙だ。雨蛙だあ!」
欧塁が見ると、先ほど草の上に座っていた蛙が目の前まで近づいて来ている。
欧「好きなのか、蛙…」
「うん、かわいいよねぇ」 にこにことする零雪。
欧塁は立ち上がると蛙に近づき簡単に捕まえた。零雪に差し出す。一瞬、零雪が身を引く。
蛙が欧塁の手から、零雪めがけて跳んだ。そしてそのまま胸元に張り付いた。
「うぎゃー!!!」
零雪が驚き、身を固くする。
欧「どうしたんだ?」
零「か、蛙…触れない…ッ!」
欧「…好きなんじゃなかったのか」
零「…好きだけど…ッ、触れない…ッ!」
とってとって、と涙ぐむ零雪に呆れる欧塁。
親切心を働かせてもこれなら、最初からなにもしなければ良かった。俯く欧塁。
零雪の胸元に張り付いた蛙を捕まえようとするが、蛙はぴょんぴょん跳ねて欧塁の手から逃げる。
欧「くそ、大人しくしてろ」
零「ら、乱暴にしちゃ駄目だよ」
欧「…あ」
欧塁が捕まえようとした手の上に蛙が飛び乗った。そしてすぐさま零雪めがけてまた跳んだ。
「!?」
零雪が慌てて、着物の中を見る。蛙は見えない奥まで入り込んでしまったようだ。気が遠くなる零雪。
「…」
「おい、しっかりしろ。…着物、脱げ」
真っ白に燃え尽きた零雪に業を煮やし、欧塁は乱暴に着物を脱がせた。驚く零雪。
零雪が上半身素っ裸になった所で、蛙は知らん顔してぴょんぴょん跳ねて行ってしまった。
欧「…まったく」
零「あ、あの…ありがとう」
欧「?」
なにが?という顔をする欧塁。
零「…蛙、好きだって言ったから、捕まえてくれたんだよね。触れないからびっくりしたけど、欧塁の気持ちはうれしかった」
と言い終える前に、唇を奪われる。目を見開く零雪。いや、唐突すぎるだろ…と再び真っ白。
欧「…俺と束城と、どっちが好き?」
欧塁は少し伏せ目がちに聞いた。零雪はまだ真っ白になっている。
欧塁は零雪の目を見て聞いた。
「俺と束城、どっちに抱かれたい?」
ゲーン、零雪は最高に真っ白になった。そんな事、まさか聞かれるとは思わなかった。
ストレートな質問にくらくらする零雪。一体なんと答えれば良いのか。
1 軋、と普通に答える
2 欧塁、と意外に答える
3 禅一郎、とぶちまける
がんばって考えた結果の選択肢がこれかよ、と零雪はふらふらと頭を抱えた。
欧塁はまだ黙ったままだ。このまま無言で押し切ってなにかを言わせたいらしい。
「…なんとか言えよ」
欧塁は少し俯いて悲しげな表情を浮がべた。
あんなに強気でアレな欧塁がなんか物思いに耽ってる!零雪は衝撃を受けた。アレとはつまりアレの事である(謎)
欧塁はふと零雪の肌を見た。成り行きで裸にしてしまったが、今日は底冷えの雨だ。零雪も寒いに違いない。
今はなぜが呆然として、うつろな瞳をしてなにかを考えているようだが、かすかに体が震えている。
鳥肌も立っているではないが。欧塁は考えた。…束城なら、どうする。こんな時、あいつならどうするんだ?
零雪は俺よりあいつの事を気に入っているようだし、あいつがするような事を今、俺がやれば零雪もなびくんじゃないか?
欧塁は閃いた。
軋なら、ここで「寒いだろ?」とか言って、零雪を優しく抱き締めるに違いない。
どさくさに紛れて下心を表すに違いない。あいつはそういうやつだ。
欧塁はそう考えると、にやりと笑った。零雪を見ると、まだなにか呆然としている。一体どうしたのだろう。
欧塁はそっと零雪に近づいた。零雪が我に返って身構える。欧塁が優しく零雪に抱擁しようとした時
ガーン!と後頭部に強い衝撃を受けた。視界の端に飛ぶ草履が見える。欧塁はぶっ倒れた。
「禅一郎…」
零雪が唖然として見ると、禅一郎が思いっきり振りきった姿勢のまま、止まっている。
隣には軋もいる。零雪はほっとして、微笑んだ。禅一郎が近づいて来る。
「まったく、崖から落ちるなんて、一体なにを考えてるんだ。お前は」
口調は怒りながらも心配そうな顔でおろおろと零雪の体の傷を見ている。

ここで先ほどの欧塁の「奴ならこういう時どうする?」の答え
禅一郎=零雪の傷の手当が先決だ。
軋=上着を脱いで、零雪に貸した。
という事で、欧塁の行動はかなりぶっ飛んでいたのでした。 …駄目だな、欧塁。

「ありがとう、二人とも。…それと、ごめん」
零雪は俯いて謝った。禅一郎が大したケガがなくて良かったと微笑む。
軋は微笑んで少し首を振ると、ぶっ倒れたままの欧塁を見た。
白目をむいて倒れたその顔に、大粒の雨がぽっぽつとぶつかっている。おでこの上に雨蛙が座っているのを見て怯む。
禅「…こういう事を聞くのは無粋かもしれないが、気になるんだ。聞いても良いか?」
零「え?なに?」
禅「…どうして、上半身、裸なんだ…」
ぎくっと驚く零雪。
零「…実は…俺が蛙が好きだって言ったら、欧塁さんが雨蛙を捕まえてくれたんだけど、それが俺の服の中に…」
と零雪は一通り、照れながら説明した。禅一郎は最初真面目に聞いていたものの、そのアホらしい展開に呆れている。
「…なにも脱がさなくても…」軋が欧塁の行動に呆れる。
禅「しかし、零雪は蛙に触れないからな。そうするしかないだろう」
「蛙…苦手なのか」軋が驚いたような顔をする。
「好きなんだけどどうしてもあのつるつる感がだめで…触れなくて…ッ」零雪が苦々しく目をつぶる。
禅一郎は欧塁にぶん投げて直撃させた自分の草履を拾って履く。
軋は再び欧塁を見た。するといつの間にかいなくなっている事に気づく。
「?」
きょろきょろと辺りを見渡すが、どこにもいない。零雪と禅一郎もその事に気づいた。
禅「どこに行ったんだ…」
零「帰っちゃったのかな…」

・その日の夜。命を懸けた賭け
机の上に牛乳瓶が二つ並んでいる。欧塁は生唾を飲むと、軋に聞いた。
「…どっちかが買って外に放置して一ヵ月経った爆弾牛乳だ・‥お前ならどっちを選ぶ」
軋は普通の顔をして「腐ってないほう」と答えた。欧塁がグーで軋の頭を殴る。
「…」
「痛いとか言え!」
「痛いとか」
「~ッ!」
欧塁は怒りに任せてがんがんと殴った。
それでも軋は「平気」という顔をしている。肉体的にも精神的にも疲れ果てる欧塁。
「…もうどうでも良い。さっさと決めろ」
「こっちにする」と軋は右に置いてある瓶を手に取った。
「待て!そっちが俺のだ。…お前は左。…良いな?」
軋から瓶を奪い取り、にやりと笑った。
軋は「別に」という顔をして、左にある瓶を手に取った。
欧塁は自分の待った瓶をまじまじと見た。実は軋には分からないように細工をしてあるのだ。
ほら、ここに赤い点の印をつけてあるから、こっちは大丈夫なほう…いや、待てよ。こっちが爆弾か?
欧塁は首を傾げた。軋は瓶の蓋を開けると飲もうとした。欧塁が待ったとばかりに軋から瓶を奪い取る。
軋はきょとんとしている。
「…やっぱりこっちにする…文句はないよな?」
軋は「勝手にすれば」という顔をしている。
欧塁と軋は一気に牛乳を飲み干した。途中で味も分からぬほどの速度でごくごくと。
直後、ぶふっと牛乳を吐き出したのは、やっぱり欧塁だった。
「な…なんで…ッ!」
口を押さえながら青ざめる。たしかに印をつけたほうが爆弾牛乳だったはずなのに!
そして部屋を出ると厠へと走って行った。軋は「余裕」といった顔でそれを見ていた。
直後、牛乳を吹き出す。「両方、当たりか」と言って、にやりと笑った。
公英が部屋に入って来て怯む。うしろに飛びのき扉に背中を思いっきりぶつけるほど驚いた。
公「何事だ!?」
口から白い液体を垂らしている軋に、いやそれより机にぶちまけられた白い液体の量に驚いた。
「…牛乳、腐ってた」と淡々と言う軋。公英は一瞬なにかを考えて、閃いた。
公「そういえば、さっき厨(くりや)に牛乳瓶があったが、まさかそれか…飲まなくて良かった…」
すんでの所で命拾いをして、ほっと胸を撫で下ろす。自分さえ良ければ良い的な公英を呆然と眺める軋。
公「…いや、お前も白い液体にまみれたまま、ぼさっと座ってないで、早く掃除しろよ。ばっちい奴だな」
軋は我に返ると頷いて立ち上がった。
二人は三日ほど寝込むほどの下痢が続き、仕事を休んだ。

・頬がこけるほどの病
公英舎長から、その事を聞き、零雪は心配になった。舎長からはただ「束城と市安が体を壊した」とだけ聞いたからだ。
何事も話が足りないのは舎長の悪い癖だ。
零雪は二人が馬鹿な賭けで腹を壊したと知らずに、あの時、雨に濡れたから風邪をひいたのだと思い込んでしまった。
比較的、風邪を引きやすい零雪でさえ無事だったのだから、そんなわけない、と禅一郎は言ったのだが、二人が体を壊す原因といったら、それしかないと零雪は申し訳なく思っていたのだ。
「…で、お見舞いに行こうと思うんだ」
「…やめておけ」
「なんで?もし、あの時の雨のせいだったら、俺のせいなんだし…」
「考え過ぎだ。馬鹿は風邪を引かないと言うぞ」
禅一郎の素の悪口に怯む零雪。
「でも…心配だよ…」と俯いた。つられて禅一郎が悲しそうな顔をする。
「…分かったよ。様子を見に行けば、それで気が済むんだろう」
「ありがとう、禅一郎!」
舎長に二人の自宅の場所は聞いていた。二人共、騎士舎近くにある長屋で一人暮らしをしているらしい。
「じゃあ、えっと…まずは」
「束城だけで良い。会って風邪かどうか聞けば、この間の雨が原因かどうか分かる」
「…二人共、同時に体を壊してるから…って事?」
「そうだ。行くぞ」
「ま、待ってよ。お見舞いの品もなにか…」
いらんいらん、と禅一郎は超嫌そうな顔をすると、零雪の手を引いた。
まだなにか言いたそうな零雪がずるずると引きずられる。

軋の家前。扉の前に立ち、零雪はそっと声をかけた。
「…軋、いる?零雪だけど…」
言い終えるのが先か障子が瞬時に開いた。びびる零雪と禅一郎。
「零雪…どうしたんだ…」げっそりとこけた頬に怯む零雪と禅一郎。
禅「…これは、単なる風邪じゃないぞ…(小声)」
零「舎長から、仕事休んでるって聞いて…心配で…」
軋[そうか…とりあえず、上がってくれ]
禅「いや、ここで良い。具合はどうなんだ?」
零「禅一郎、せっかくだからお邪魔させてもらおうよ(小声)」
禅「駄目だ。風邪だったら、確実に移されるぞ。それともお前は移されて、あんなに頬がこけても良いのか?(小声)」
そりゃ嫌だけど…と零雪は困った顔をした。軋が首を傾げる。
「…実は…腹を下して…いや、壊して…」
「腹を下した!?」零雪と禅一郎がはもった。怯む軋。
「そんなに大声で言うな…近所のみなさんに俺が腹を下したと知られたらどうするんだ…」
超恥ずかしいじゃないか、と軋は俯いた。零雪と禅一郎が戸惑う。
零「それって…風邪が原因ですか?」
軋「風邪?いや、違うけど…」
禅「ほら見ろ、やっぱり違ったじゃないか(小声)」
零「じゃあ、どうして…」
軋は黙り込んだ。
まさかあんな馬鹿らしい牛乳ロシアンルーレットの事など零雪に話せるわけがない。
「…牛乳、腐ってて…」と軋は極端に話を短くして言った。零雪が怯んで後ずさる。
欧塁さんも牛乳飲んで、ぶっ倒れたことがあるって言ってたけど、まさか軋まで…!←零雪の心の声
騎士舎って、もしかして腐った牛乳しか飲めないほど緊迫した金欠なんだろうか…、と考え込む零雪。
禅「市安も休んでいると聞いたが…」
軋「…あいつも腐った牛乳飲んで…」
零雪は内心(やっぱり!!!)と思った。騎士舎の貧乏っぷりに泣けて来る。
「…そうか。早く良くなれよ。じゃあな」禅一郎が零雪の背を押して帰ろうとする。慌てる零雪
零「軋…一人で平気?ちゃんとご飯食べてるのか?」
軋「いや…正直(厠への往復で忙しくて)食べれてない」
「そりゃ腹が悪ければそうだろうな。安静にしていれば治るさ。じゃあな」と再び零雪の背を押す禅一郎
零「お、俺、おかゆ作ってあげるよ。それならおなかに優しいし、栄養あるやつ食べたら、きっとすぐに良くなるよ」
禅一郎は超嫌そうな顔をして黙り込んでいる。口も半開きだ。
軋「本当?ありがとう…」
禅一郎は(ちょっとは遠慮しろよ!!!)と青ざめている。
「じゃあ、ちょっと待ってて。あ、部屋で寝てて良いから!」と零雪は禅一郎の袂を引っ張ると部隊へ戻って行った。

―守護部隊食堂
零雪は腕組みをして、かまどの火をじっと見据えている。
「もう少しかな…」
「…」禅一郎は中腰で黙って薪をくべている。
あれから部隊に戻って来て、腹痛に聞く薬草を山茶花先生に聞いて、歳川さんに頼んでかゆの作り方を教わった。
お手製のおなかに優しいおかゆがもうすぐ出来上がる。
「なあ、禅一郎。こういうのって、やっぱり冷めたらおなかに悪いと思うんだ。だから出来るだけ暖かいうちに持って行ってあげたい。…で」
「部下に宅配させる」
「…」
「俺とお前はここにいる」
「いや…禅一郎…?」
「…決まりだ」
禅一郎は火に薪をほうり込むと零雪を見上げた。零雪は「超不満」といった顔をしている。
「…なにも言うな。もう決まった事だ」
「…こういうのって、持って行ってあげなきゃ意味がないと思うんだ!」
「どうして、そこまで世話を焼きたがるんだ…お前、本当に束城に惚れてるわけじゃないだろうな?]
訝しむ視線に怯む零雪
「なんでそうなるんだ…軋だけじゃないよ。欧塁さんにも持って行きたいんだ」
禅一郎がゲーンという顔をする。「勘弁してくれ…」
「禅一郎…それじゃ聞くけど、もし俺が一人暮らししてて、ちょっと具合悪くなって、頬がこけるほど腹を空かせてたら、禅一郎はどうするんだ?」
禅一郎は即答した。
「お前が一人暮らしをするなんてありえない」
「いや…だから、たとえばの話で…」
「お前が一人で暮らすなら、俺も一緒に暮らす」
きっぱりと断言する禅一郎に後ずさって怯む零雪
「お前、俺の話聞いてるか?はぐらかさないで答えてくれよ…」
「いやだ」と首を振る禅一郎に唖然とする零雪
「…俺が答えたら、お前はどうせ二人の家に行くつもりなんだろう…」
禅一郎はなぜか悲しげに呟いた。
「…その事なんだけど、二人の家にかゆが冷めないうちに行きたいから、どっちかがどっちかの家に一人ずつ…」
「いやだ!お前はどうせ束城のところに行くつもりなんだろう!」
なんだ、この大きい駄々っ子は…と怯む零雪。とりあえず、気を取り直して口を開く。
「…じゃあ、俺が欧塁さんの所に行くよ…それなら良いのか?」
「…(そう来たか)」青ざめる禅一郎
「長居しても迷惑だろうし、すぐに帰るから大丈夫…って、うわ噴いてる!」
慌ててかゆを見る零雪。
禅一郎、超不機嫌そう…

・苦手だけど嫌いじゃない。会いたくないけど嫌いじゃない。
欧塁の家の前に鍋を待った零雪がいる。声をかけようかどうしようか、ここまで来て迷っていた。
迷惑だと追い返されたらどうしよう…、と俯いた。けど、せっかく冷める前に、と急いでここまでやって来たのだ。
今更引き返すわけには行かない…。零雪は心を決めると、戸の前に立った。
「…欧塁さん、いますか?零雪です…」
中から応答はない。…まさか!最悪の事態を考えてしまい青ざめる零雪。
戸をおそるおそる開く。
…?
「うわあああ!」
零雪が悲鳴をあげた。細い隙間を片目で覗くと、そこに目があったからだ。
戸ががらりと開く。
「…なにしに来た」
「(び、び、びっくりした~ッ!!)…こ、こんにちは」
零雪が改めて欧塁の顔を見る。軋ほどではないが、やはり頬がこけている。クマまで出来ているではないか。
「あ、あの…仕事休んでるって聞いて…おなか壊してるって…どうですか、具合は…」
欧塁は戸にもたれると額に手をあてた。「最悪だ…」と呟く。
「たった一ヵ月の天日の下で、あれほどの物(ブツ)が出来るとは…」
悔しそうに呻く。零雪はきょとんとしている。
「あ、あの…腹痛に効く薬草入りのおかゆを持って来たんです。…これ食べたら、きっと良くなりますよ」
零雪が持つ鍋を見て、欧塁が内心驚く。
「…上がれよ」と部屋に招き入れた。

欧塁の部屋はがらんとしていた。まず物がない。やっぱり貧乏なんだ…と思わず涙ぐむ零雪。
欧塁は病人らしく、よろよろと布団に横たわる。力のない弱った欧塁はまるで別人のようだ。
(…なんか、かわいいな…)零雪はなぜか内心にやりとした。
零雪は欧塁の隣に座る。
「今…食べますか?」
「…ああ」
零雪がかゆを椀によそう。
それを寝ながら横目で見る欧塁。人に看病なんてされたのは、いつ以来の事だろう。
いや、それよりもまず心配された事も久しぶりの事のような気がする。
「欧塁さん…」
「食べさせてくれ」
あからさまに超嫌そうな顔をする零雪を見て、内心イラッと来る欧塁w
欧塁はしぶしぶ起き上がると零雪から茶碗を受け取った。さじでかゆをすくう。
なるほど、たしかに色々と薬草らしき草が入っている。欧塁はさじを口元に運ぶ。
「食べる前は、ちゃんといただきますって言わないと駄目ですよ」
「…」
欧塁は茶碗にさじを置いた。
乱暴に置いたので、カチンとかん高い音がした。
慌てる零雪。相手が弱っているからと思って甘く見ていたが、やはり恐い。
かゆから湯気があがる。…まだ暖かいのか。
「…これ、どうしたんだ」
「え?俺が作ったんですよ。禅一郎とだけど」と微笑む。
守護部隊からここまではどのくらい距離があるのだろう。正確な事は分からないが、それほど近所ではないはずだ。
こんな大きな鍋をわざわざ持って来てくれたのか。…俺のために?
「…いただきます」と欧塁はさじを持つとかゆを一口食べた。
「…」
零雪はおいしいかどうか、気になって黙ってそれを見守っている。
「…」
「お、おいしいですか?」
「…」
欧塁はなにも言わず、もくもくと食べた。
たくさん食べる所を見ると、まずくはないのか。零雪は黙り込んだ。
欧塁は米粒ひとつ残さず食べ終えるとさじを置いた。
「…うまかった。ごちそうさま」
零雪が満面の笑みを浮かべる。
「良かった…。じゃあ、残りはまたあとで暖めて食べて下さいね」
長居しても邪魔になるだろうと零雪は立ち上がった。欧塁が慌てて顔を上げる。
「あ…」
「?」
欧塁は目をそらした。零雪が首を傾げる。
「早く良くなって下さいね。…それじゃあ、また」
「あ、あり…」
ありがとうと素直に言えず、目をぎゅっとつぶる欧塁
「アリ…?」
「そ、そこに蟻がいる。…踏むな」
「ほんとだ。危ない危ない」
零雪は足元の蟻に気をつけつつ、草履を履くと戸に手をかけた。欧塁は立ち上がると、うしろからしがみついた。
零雪は驚いた。欧塁のその行動にではなく、いつもの馬鹿力がない事に。
力無くしがみつく手を無理に振りほどく事も出来ず、零雪は黙ってそれを受け止めた。
「…欧塁さん」
「…」
欧塁は考えた。こういう時、束城ならなんて言う?
「俺の物になれ!」か?いや、違う。こういう事は功刀のほうが言いそうな事だ。←当たってる
「ここにいてくれ…」か?いや、言いそうだが、ひねりがない。いやだと言われればそれで終わりじゃないか。
もっと断りにくそうなやつ…と欧塁は思考力総動員で考えた。実は口下手な欧塁であるが、本人はそれに気づいていない。
「お、欧塁さん…」
「…」
欧塁はがくりと崩れ落ちた。三日のはらいた地獄で体力が極端に落ちているのだろう。
ずっと寝ていたせいか、立っているのもつらかった。
零雪が慌てて欧塁を抱き起こす。
「だ、大丈夫ですか!」
欧塁の力無い表情を見て、心底心配する零雪
そいつの頭の中は不純な事ばかり考えているのだが、それを零雪が知るすべはない。
「…どうして、俺のとこに来たんだ…」
「え…?」
零雪は戸惑った。禅一郎が軋との事を異様に疑うので、成り行きでこっちに来たのだ。特に理由などない。
「えっと…」
「…束城も、俺と同じように仕事を休んだ。それは知ってるんだろう?」
「う、うん…」
「…なのに、どうして俺のとこに来たんだ…」
かすれるような声。いつものようなナメた口調ではない。
(いつもこうなら楽なのに…)と零雪は思った。しかし、弱ってたら弱っていたで放っておけなくて困るのだ。
「軋の方は禅一郎が行ってるから…。早く良くなって下さい。ほら、布団に寝てなきゃ」
と零雪は欧塁を布団に寝かせた。素直に横たわる欧塁は、やはりなんとなく可愛い。
(いつもあんなに元気が良いのに、腹が悪いだけでこんなになるとは…はらいたってやっぱり恐いな)
と感慨深げに頷く零雪。欧塁は眠ってしまったようだ。零雪はそっと家を出た。

・遅い!
守護部隊の門前に禅一郎が仁王立ちをしているのを見て、顔がひきつる零雪。
「遅いじゃないか…」と低く恐ろしい声で言われ、たじろぐ。
「そんなに遅かったかな?禅一郎の方はどのくらいで戻って来たんだ?」
「鍋を届けて、すぐに戻って来たぞ」
「軋の具合はどうだった?おかゆは喜んでくれた?」
「…ああ」と禅一郎はわざと言葉少なに答えた。
「欧塁さんもね、喜んでくれたよ。ものすごい頬もこけてたけど、きっとすぐに良くなるよね」
と零雪の純粋な笑顔を見て、つい顔がほころぶ禅一郎。
「…そうだな。束城もお前に礼を言っていた」
「そうか、良かった…。禅一郎も手伝ってくれて、ありがと。じゃあ、中に入ろう」
「ああ…」

・はらいた持ち、実は…
後日。すっかり良くなった軋と欧塁は、合同見回り任務という事で零雪と禅一郎と共に町を見回っていた。
成り行きで腹痛の話題になる。
零「…実は俺、腹が弱くて…ちょっと冷えただけでも、すぐに痛くなっちゃうんだよなあ…」
欧「まるでガキだな。いや、やはりガキだな、と言うべきか」
(ずっと寝込んでたら良いのに…)と喉元まで出て来た言葉をグッとこらえる零雪。
軋「俺も腹は弱いんだ。ちょっとでも古くなった物食べると確実に来るな」
零「分かる分かる…」
禅「…(はらいた友達が出来てる…)」
欧「…今度、腐った牛乳で運試ししないか?」
零「なにそれ!?」
禅「まさか、この間のはそれが原因じゃないだろうな…?」
軋「…」
欧「…」
零「嘘だろ…そんな事で…あんなに俺、心配したのに!」
禅「…予想以上に馬鹿だったな…」
零「信じられないよ…」
軋「ごめん…」
欧「まさか両方共腐ってるとは思わなかったんだ」
零「…」
呆然を通り越して、真っ白になる零雪であった…
(もう二度とこの二人の事は心配したりしない… by零雪)

・その後 いつかの夜
欧塁は雨のやっと上がった空を眺めていた。湿った上は独特な雨の香りがする。
縁側に座り、庭を見た。草についた雨露が月夜に照らされ光っている。ふと見覚えのある顔をした雨蛙がいる事に気づく。
あの時のあいつか?欧塁が怪訝な顔をして、睨みつけた。(蛙にまで睨み効かすなよ…w)
蛙はぴょんぴょん跳ねると、欧塁に近寄って来た。欧塁は足元の小石を拾うと、蛙めがけてなげつけた。
蛙の額に、すけん、と小石が当たって跳ねた。小指の爪より小さい石だったが、反動で蛙の頭は小さく上下に揺れた。
欧塁はちょっと笑った。
「…お前、俺の事好きか?」
雨蛙は考えているかのように、ケロケロと小さく鳴いた。
「あいつはお前の事、好きなんだって。…俺もお前みたくなれたら、好きになってもらえるかな」
と呟いたあとに、そういえば蛙に触れないんだっけ…、とゲーンと青ざめた。
「…今のなし。聞かなかった事にしてくれ」
と欧塁は蛙に話しかけると、家の中に戻って行った。
その日は、ケロケロと小さく歌うように鳴く声が朝まで鳴り止む事はなかった。
…うるさい。欧塁は耳に手を当てたまま、もんもんと夜を過ごした。
その翌日、偶然会った零雪に「またクマが出来てる!」と指摘されたのは言うまでもない…





・跋(あとがき)
何事も裏目に出る男、欧塁。不運というか、もはやなんなのか。笑いの神が降りて来ているだけなのか。
軋に大して相当なライバル心があるようなないような。とにかく、憎くて憎くてしょうがないのは確実だろう。
しかし、牛乳で運試しとはかなり危険だ…。軋もそんな遊びに乗るなよ、と思うが、結構似た者同士なのかもしれない。
話は最初に戻るが、普通に騎士舎の忘年会に毎年参加してる欧塁がなんかかわいい(笑)
普段やなやつが弱ってたり、ちょっとでも真面目なところを見ると
かわいいと思ってしまうのは、役得といえるだろう…。でも結局、健康になるとやっぱ憎たらしいんだが(笑)
ちなみに公英舎長ことハム舎長が出ると、なぜかハムが無性に食べたくなるのは余談である。
最後に今回のポイントは「まるでガキだな。いや、やはりガキだな、と言うべきか」と欧塁に言われ
(ずっと寝込んでたら良いのに…)という心の声を喉元というすんでの所で我慢した零雪。
まさしくその通り!と思える、ナイス心の声と言えよう。

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