*常夜一片

常夜一片短編 腹が減っては○○が出来ぬ [小説]




常夜一片 短編

腹が減っては○○が出来ぬ




犬猿の仲。決して交わらないといわれる仲のたとえ。
犬と猿。それは結構、どこにでもいるもの…



「さて、そろそろ決めてもらおうか」
禅一郎は微動だにせず問いかけた。目の前には盗賊三人組。荒々しく戦った名残である欠けた刃の刀をこちらに向けている。
「なっなに偉そうにしてやがる!お前はたった一人!こっちは三人もいるんだぞ!?」
禅一郎は、ほほう?と眉を動かすと、鼻で笑った。
「お前達が何人いようと、俺に勝てるとは思えんが?」
なっなにをぉ!?と盗賊は体を乗り出した。
「では、地獄への案内人の名前くらい教えてやっても良いだろう。俺は功刀禅一郎。守護部隊壱番隊に属している」
「うええげぇ!?」
と盗賊の一人がすっとんきょうな声をあげる。
「ど、どうしたっ!?」
「ばっ馬鹿野郎!守護部隊壱番隊といったら情け無用の修羅部隊じゃねえか…っ」
「まっまさか…どんな善人も笑顔で斬り殺すと言われている、あの…?」
(一体、どんな噂なんだ…まあ、恐れられるのは良い事だが)
禅一郎は少し頷くと腰にさしている小刀を抜いた。
「ひっ氷室の功刀さんよっ、ちょ、ちょっと待ってくれや!?」
「なんだ?金の在りかを吐く気になったか?」
「ちっ、結局それかよ!自分の肥やしを増やすのに必死なわけか!」
「ばっ馬鹿野郎!変な挑発するなって!」
「たしかに、俺達の部隊費になるけど、元々それは国のお金だからね。返してもらわないと」
盗賊達がぎょっと禅一郎の背後を見る。
「遅かったな」
禅一郎は振り向きもせず、そう言った。
「お前達の仲間は大人しく捕まったよ。もうこれで逃げられないね」
と新しく来た人物は笑顔だ。
「お、親分、どうしますか。相手は二人に増えちまいましたが…」
「うっうるせえ…なんとか逃げる方法を…」
「大丈夫だよ。痛くないように逝かせてあげるから」
「それが嫌なら、とことん苦しめたあげく、死んだ方がマシだと思える事をしてやろうか?」
ひぃぃぃ!と盗賊達は震え上がった。
「俺は守護部隊壱番隊隊長、迅木零雪。まずは誰から逝こうか?」
「白魔の迅木!?」
「笑顔でどんな善人もちぎっては投げちぎっては投げるという…!?」
(いや…そんなことはしないけど…)と零雪は頭をぽりぽり掻いた。
「すっすみませんでしたー!!!」
「おっ親分!?」
「ばっ馬鹿野郎!どんな金でも命だけは買えねぇ!お前らもさっさと謝れ!」
「すっすみませんでしたー!!!」
「良い子だ」
「子っていうか、おじさんだけどね」

―その後
「歳川さんっ、おかわりっ!」
「おいおい、零雪、もう五杯目だぞ?腹、壊すぞ」
歳川はそう言いながらも零雪のご飯茶碗に山盛りの炊き立ての白飯をよそうと手渡した。
「もぐもぐもぐもぐもぐ!!!」
「ちゃんと噛んで食えよ、零雪」
禅一郎が横目でがっつく零雪を見ながら呟く。
「だってお腹空いて我慢できな…がつがつ!」
はぁ…と禅一郎は溜息。
「零雪、米粒がついてるぞ」
作間が零雪の頬に手を伸ばす。その瞬間、さっと禅一郎が布巾を手に取り、零雪の頬を拭った。
(さすが、功刀…スキがないねぇ…)
作間は苦笑いしつつ、手を引っ込めた。
「ありがと、禅一郎」
「いや」
「それにしても、歳川さんの料理ってすんごく美味しいよー!」
「そうかい、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「はい、おかわり!」
「零雪…本当に腹壊すぞ…」
歳川は苦笑いしつつも零雪のご飯茶碗を受け取った…

―さらにその後
「歳川、少し話がある」
調理場で後片付け中の歳川に禅一郎が話しかけている。珍しい光景だ。
「禅さん、どうしたんだい?」
歳川は手を休めると禅一郎に向き合った。
「その…時間が空いた時で構わない。俺に…」
禅一郎が言いよどむ事など本当に珍しい。歳川は不思議そうに見守っている。
「俺に…料理を教えてくれないか…」
!!!
歳川は内心の驚きっぷりを必死に隠した。禅さんが俺に料理を教えてもらいたいと!?あ、あの禅さんが…くっなぜだ!?笑いがとまらん…っ
「どうした?」
挙動不審な歳川を見て、禅一郎が声をかける。歳川は慌てて首を振ると、笑いが漏れぬよう必死に真顔を作った。
「ど、どうしたんだい、突然」
「…いや、別に…ただ、零雪が好きなものくらいは作れるようになりたくて…」
と、さして照れる様子もなく、淡々と禅一郎は言った。歳川はなるほど、と頷くと考えた。
「零雪の好きなものねぇ…さて、なにが良いかな」
「なるべく…簡単なものを頼む」

(そう言えば…なんでもそつ無くこなす禅さんでも料理だけは苦手だっけ…さ、さてどうしよう…)
歳川は頭を抱えて座り込んでうなりたい気持ちを隠して、平静を装った。

「じ、じゃあ、早速始めようか!?」
歳川は不安を隠し切れず、声が裏返ってしまった。禅一郎はその様子に気づいていたが、あえてなにも言わずに黙々と作業している。
「禅さん、手際良いねぇ」
「…問題なのは…このあとだ…」
禅一郎は忌々しく眉間に皺を寄せると、ちらりと調味料の類いを睨みつけた。そう。禅一郎が苦手なのは、なによりも味付けなのだ。見た目は良いが味は最悪。禅一郎は自分の手料理をそう感じていた。

「出来た…」

歳川はふらふらと椅子に座った。えらく時間がかかった気がするが、まだ二時間も経っていない。緊張し過ぎて頭がくらくらする。なにしろ、あの禅さんが自分の苦手な事に挑戦するなど、滅多とない。
もし、失敗したら…
それを考えると恐ろしくて心臓が激しく脈打つのだ。
「歳川…有難う。助かった」
「味見…しないのかい?」
「ああ…大丈夫だろう」
歳川は頷いた。ずっと見ていたが、たしかに変な味付けにはなっていなかったように思える。問題はもうひとつの…。禅一郎は片隅にあった異様な雰囲気の漂う謎の料理を手に取った。
「ぜ、禅さん!?」
慌てて歳川が止める。
「なんだ?」
「そ、それ…どうするんだい」
「ふ…安心しろ。零雪に食べさせる訳じゃあない」
じゃあ、誰にたべさすんだー!?と、歳川は混乱した。口をぱくぱくさせている。
「ではな」
禅一郎は会心の出来の料理と異様な雰囲気の手料理を、弁当箱に別々に詰めると調理室を出て行った。後片付けは手際の良い禅一郎らしく、作る傍らで片付けて行っている為、全くする必要がなかった。いつの間にか、歳川の仕事である他の後片付けも終わっており、これが禅一郎なりのお礼なのかと歳川は感心した。

にしても、あの異様な雰囲気の料理…どうするつもりなんだろう…歳川は緊張から解放されて、椅子の上でうなだれた。

―壱番隊隊長執務室。
「入るぞ」
「どこ行ってたんだ?」
机では零雪が仕事を片付けている最中だ。
「お前の事だ。もう腹が減って来たんじゃないか?」
「そういえば…今日は仕事も多くて疲れちゃったよ…もうおなかぺこぺこ…」
「食うか?」
禅一郎は零雪の机に弁当箱を置いた。包んでいた風呂敷を解く。
「なになに!?」
零雪は椅子から立ち上がると身を乗り出して弁当箱を覗き込む。
「俺が…作ったんだが」
ぎょっと零雪が一瞬怯む。禅一郎の料理下手は零雪もよく知っている。というか部隊の中で知っている者は、零雪と歳川くらいのものなのだが。
「…食べて…くれるか?」
禅一郎は少し俯くと呟くように聞いた。零雪はかなり動揺しつつも急いで頷いた。
「も、勿論!食べるよ!」
声が裏返る。禅一郎は大して気にせずに弁当箱の蓋を開けた。

!?
零雪は息を呑んだ。そこには今まで見た事のない生まれて初めて見る物体があった。
「おっと、間違えた」
禅一郎は蓋を閉じると丁寧に風呂敷で包み直し、別の包みを取り出した。
「禅一郎…今のは…?」
「気にするな」
(あーびっくりした…にしてもなんだったんだろう、あの黒いの…)
禅一郎は包みを解くと、蓋を開けた。

箱にはぎっしりといなり寿司が入っていた。零雪の大好物だ。
「う、うまそう!」
じゅるりと我慢出来ずに涎が溢れ出す。
「全部、食って良いんだぞ。…お前のだから」
禅一郎はふと笑うと水筒にお茶を注いだ。それから、おしぼりを零雪に手渡す。
おしぼりで手を拭くと零雪は「いっただきます!」と大きく言ってから、覚悟を決めたようにいなり寿司を口に頬張った。
「う、うまい!すんごいおいしいよ、禅一郎!」
零雪がばくばくと美味しそうに食べる様子を見て、禅一郎は優しく笑った。

「うー…もう食べられない…」
「充分だ」
「もっと食べたいのに…おなかが…いらないって…」
「充分過ぎる程だと思うが」
禅一郎は弁当箱の蓋を閉じると日陰の棚に入れた。
「あとで腹が空いても夕飯までは食うなよ」
「わ、分かったよ…」
「じゃあ、俺は他に用がある」
「禅一郎、ありがとな!すっごく美味かったよ」
零雪のにこにこ満面の笑顔を見て、禅一郎は少し微笑んだ。
「またいつでも作ってやるさ」
そして、部屋を出た。
「さて…」


ここでクイズです。禅一郎さんは異様な物体の入った弁当箱を持って、どこへ行くのでしょうか?
1、斑鳩主隊長(守護部隊の一番エラい人)のところ
2、作間のところ
3、実は自分の弁当

チッチッチッチッチッ…はいタイムアーップ!正解は勿論、作間のところでしたー!3だったら、禅一郎さん恐すぎ…


禅一郎は受付を訪れていた。ぐでーっとした作間が受付で頬杖をついている。
「今日も暇そうだな」
禅一郎は不敵な笑みで声をかけた。普段はほぼ無視の癖に珍しい事もあるもんだ、と作間が向き直る。
「いきなりそりゃないだろ」
「まあ、そんな嫌そうな顔をするな。今日はお前に差し入れを持って来た」
「えっ!?(すんごいやな予感!?)」
これだ、と受付に風呂敷包みを置く。作間があからさまに恐怖の表情を浮かべる。
(いきなり爆発とかしないよな…?)
※実は作間は、禅一郎の恨みをかなり買っている事を自覚しているのでハラハラドキドキなのだ。

禅一郎は風呂敷包みを解くと蓋を外した。異様な物体が中に入っている。
「こ、これは…?」
作間の声が裏返る。
「お前の好物だ。当ててみろ」
「俺の…好物…?」
俺の好物にこんな異様な物体あったっけ…?と作間は目を白黒させた。
「マジで…なに?」
「食べてみれば…分かるんじゃないか?」
禅一郎は言い終わると、にやりと笑った。俺の命令を絶対否定するなよ、という無言の圧力を感じ、作間が怯える。

…俺、殺される!?

「どうする?食うか?食わないのか?」
禅一郎は不気味な笑顔だ。作間の顔は真っ青。どうする、どうするんだ、作間!?

「…食…う…よ…?」

一文字ずつ、喘ぐように返事をした。ようし、漢だな、作間!!!

「そうか…」
禅一郎は相変わらず笑っている。
「ひとつ…聞いても良いかな?」
「なんだ?」
「これは…お前が作ったのか?」
「そうだが?」
「そうか…」

…俺、死ぬかも!?

「じゃあ、いただくよ」
作間は冷や汗の浮いた顔で笑顔を作った。作間は最後まで漢だった。(勝手に殺すなよ)

うわあ…なんか、やわらかい…

ぐにょ

「げっ」
「どうした?」
不気味な感触を指に感じ、作間が怯む。禅一郎はその様子を一瞬足りとも見逃すまいとじっと見つめ、楽しんでいるようだ。

「な、なんでもないさ。じ、じゃあ、食うよ」
「ああ、どうぞ」

作間は息を止めた。それでもなんだかスーッとした香りがする。目をつぶる。口を開く。唇にあの変な物体が触れる。頬がつりそうになる。
「ぜんぶ、入れろよ」
マジで!?作間は心の中で叫んだ。鬼だ…功刀禅一郎は鬼だ…
「一口で食え。出したら殺す」
マジだ!声がマジだ!!!作間は心の中で泣きわめいた。恐くて目を開く事が出来ない。自分が今手にしている謎の物体を間近に凝視する事もつらいが、たとえ目をつぶっていても、鬼のように笑う禅一郎の姿がありありと浮かんで来る。

作間は目をつぶったまま、震える手でなにかを掴み、自分の口に入れようとしている。遠巻きに見ていた他の隊員達が固唾を飲んで見守っている。
「マジで作間さん、食べるつもりかな…」
「というか、あれ一体なんなんだ?正直見た事がないんだが…」
「作間、漢だねぇ」
「俺、ちょっと尊敬したかも」
「俺だったら、泣いちゃってるよ~」

「作間、いつまでそうしてるつもりだ?」
かれこれ、黒い物体が作間の唇に触れてから、三分が経過しようといていた。作間の頬を汗が伝う。
「ひ、ひまからくうは…」(今から食うさ)

覚悟を決めたように、ぎゅっと目をつぶると口の中に放り込んだ。おぉぉ…という取り巻きの観衆の歓声が聞こえる。
「うっ」
「よく噛めよ」
「………」
「どうだ?」
「………?」
「美味いだろう」
「これ…漬物?」
「好きだっただろう?」
「好きだが…うん、美味いけど…でもあの見た目…」
と言いかけてやめる。禅一郎の眉がぴくりと動いたからだ。
「まだ実験途中でな。それひとつしか作れなかったが、また今度沢山作って来てやるよ」
ハハハハハと高笑いをしながら、禅一郎は歩いて行った。観衆達が何事もない様子を見て、お互いに顔を見合わせたあと、安心したような、つまらないような、複雑な顔で散らばって行った。作間はボリボリと漬物を噛みつつ、頭の中が真っ白だった。

…一体、どういう風に漬けたらあんなに黒くなるんだ…?というか、この漬物、悔しいけど本当に美味いな…





跋~あとがき~
禅一郎さん、悪すぎ…w
歳川さんに習いながら作るとそれなりに出来るようだが、やっぱり料理下手は治らないようだ。
にしても、作間…今回すごい苛められちゃったね…
「ぜんぶ、入れろよ」「一口で食え。出したら殺す」は、名言だと思いましたw
作間はこんな恐い目にあっても、零雪にべたつくのをやめない真の漢であります!w

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